明星学園

トピックス(小学校)

お知らせ

充実した二学期を(後編)

校長だより
4、広島・長崎平和宣言より
8月6日に広島で、8月9日に長崎で、原爆投下から74回目の平和祈念式典が行われました。その式典の中で、長崎市長の田上富久さんは、原子爆弾により家族を失い、自らも大けがを負った女性がつづった詩を通して、次のような宣言をされています。
「中略―、原爆は『人の手』によってつくられ、『人の上』に落とされました。だからこそ『人の意志』によって、無くすことができます。そして、その意志が生まれる場所は、間違いなく、私たち一人ひとりの心の中です。今、核兵器を巡る世界情勢はとても危険な状況です。核兵器は役に立つと平然と公言する風潮が再びははびこり始め、アメリカは小型でより使いやすい核兵器の開発を打ち出しました。ロシアは、新型核兵器の開発と配備を表明しました。その上、冷戦時代の軍拡競争を終わらせた中距離核戦力(INF)全廃条約は否定され、戦略核兵器を削減する条約、(新START)の継続も危機に瀕しています。世界から核兵器をなくそうと積み重ねてきた人類の努力の成果が次々と壊され、核兵器が使われる危険性が高まっています。中略―、1954年のビキニ環礁での水爆実験を機に世界中に広がった反核運動は、やがて禁止条約を生み出しました。一昨年の核兵器禁止条約にも市民社会の力が大きな役割を果たしました。私たち一人ひとりの力は、微力であっても、決して無力ではないのです。世界の市民社会の皆さんに呼びかけます。戦争や被爆体験を語り継ぎましょう。戦争が何をもたらしたかを知ることは、平和をつくる大切な第一歩です。国を超えて人と人との間に信頼関係を積み重ねることは、国同士の不信感による戦争を防ぐ力にもなります。人の痛みがわかることの大切さを子どもたちに伝え続けましょう。それは子どもたちの心に平和の種を植えることになります。平和のためにできることはたくさんあります。あきらめずに、そして無関心にならずに、地道に『平和の文化』を育て続けましょう。そして、核兵器はいらない、と声を上げましょう。それは、小さな私たち一人ひとりにできる大きな役割だと思います。中略―原子爆弾で亡くなられた方々に心から哀悼の意を捧げ、長崎は広島とともに、そして平和を築く力になりたいと思う全ての人たちと力を合わせて、核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に力を尽くし続けることをここに宣言します。」
広島市長の松井一実さんも次のように宣言されています。
「中略―、一人の人間の力は小さく弱くても、一人一人が平和を望むことで、戦争を起こそうとする力を食い止めることができると信じています」という当時15歳だった女性の信条を単なる願いに終わらせて良いのでしょうか。世界に目を向けると、一人の力は小さくても、多くの人が結集すれば願いが実現するという事例が沢山あります。インドの独立は、その事例の一つであり、独立に貢献したガンジーは辛く厳しい体験を経て、こんな言葉を残しています。『不寛容はそれ自体が暴力の一形態であり、真の民主主的精神の成長を妨げるものです』 現状に背を向けることなく、平和で持続的な世界を実現していくためには、私たち一人一人が立場や主張の違いを互いに乗り越え、理想を目指し共に努力するという「寛容」の心をもたなければなりません。そのためには、未来を担う若い人たちが、原爆や戦争を単なる過去の出来事と捉えず、また、被爆者や平和な世界を目指す人たちの声や努力を自らのものとして、たゆまぬ前進をしていくことが重要となります。中略―本日、被爆74周年の平和祈念式典に当たり、原爆犠牲者の御霊に心から哀悼の誠を捧げるとともに、核兵器禁止、核兵器廃絶とその先にある世界恒久平和の実現に向けて被爆地長崎、そして思いを同じくする世界の人々と共に力を尽くすことを誓います。」
核兵器廃絶とその先にある世界恒久平和を希求する人たちがいる一方で、核兵器のみならずAI兵器も作り出し、普及させようとしている人たちがいます。8月23日(金)の読売新聞社説には「AI兵器の規制―攻撃判断を委ねるべきではない」という記事が載っていました。これも少し引用してみます。
「中略―問題となっているのは、『自律型致死兵器システム(LAWS)』だ。人間の命令なしに、AIが自ら標的を選択し、殺害する。人間が沿革操作するドローンなどの無人兵器とは異なり、攻撃の責任の所在が不明確になりかねない。人間が戦闘を管理できなくなる可能性が懸念される。そもそもAIに生殺与奪の権利を握らせるべきではない、という主張もある。国際人道法や倫理面でLAWSが多くの問題点をはらんでいるのは明白である。中略―オーストリアやブラジル、途上国グループは軍縮推進の立場から、LAWS禁止条約を求める。一方、AI兵器の開発で先行する米国やロシアは、禁止や規制には慎重で、溝が生じている。中略―米露をルール作りに引き込み、AI兵器の透明性や各国間の信頼を高めることが大切だ。一方で、民間のAI技術の研究・開発が、軍事転用の可能性を理由に規制されることは防がねばならない。日本は、完全自律型のLAWSは開発しないとの立場をとる。建設的な議論を主張する役割を果たしてもらいたい。」
悲しい現実ですが、だからこそ田上さんが述べられた「意志が生まれる場所は、間違いなく、私たち一人ひとりの心の中です。」という原点に立ち返らなければならなりません。明星学園の創立者は、「ひとそのもの」を育てるために明星学園を創立しました。そして、個性尊重・自主自立・自由平等を教育理念に位置付け、それを具現化すべく、教育課程を編成してきました。子どもたちは、文学や芸術の学習や鑑賞を通して、人類はどんな感情や美意識、人間としての価値意識や心の在り方を獲得してきたのかを学び、科学の方法を学ぶ事によって、人類は如何にして真理と真実、社会的正義、生き方や共同のあり方を探究しようとしてきたかを学び、その方法もまた批判的に獲得していきます。社会科などを通して、人権や自由や民主主義や平和という価値もまたそのような人間の歴史的な探究の成果であることを知り、それを継承していく課題に取り組みます。自治や民主主義やコミュニケーションに依拠して自分たちの生きていく関係性をどう構築していったら良いかを学級活動を通して学びます。そこでは人間の尊厳とは何か、人間的正義とは何かが鋭く争われます。コミュニケーションを通して正義を探究し合い、合意を形成し、自分自身で規律していくという過程で平和の方法や自治の大切さ、法の(決まり)の意味も体得していくのです。科学や文化の継承をめぐる対決や葛藤、あるいは自治による格闘などが組織されない空間では、これらの事は習得されません。そしてそれらは人間だからできる事(取り組まなければならない事)であり、コンピューターでは出来ない、コンピューター任せにも出来ない事なのです。
社会の状況を見つめると、国の内外においても、国交においても、地球環境においても、深刻な課題が山積しています。そのような中子どもたちは、人間的尊厳を実現するため、他者とともに安心して生きられる関係性を回復するため、教室を互いの安心と自由を保障し合う関係の場にするため、勉強がわかり面白いものになるよう授業を教室の中に作り出すため、未来に希望が見いだせるような社会の在り方をともに考えるため、そして自分の力に確信を持って生きていく自信を回復するため、人間として誇れる生き方を今の生活に実現するために探究を続けています。この世に生まれる子どもたちは「DNA・親・社会」の3つを選ぶ事ができません。しかし社会は、異なる他者が共同性を築く中で互いを感じ、より良いものに創り変えていくことができます。その変革・創造に相応しい学力を保障すべく、二学期も明星の教育を実践して参ります。「人そのものとは何か」について一緒に探究できれば幸いです。