明星学園

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お知らせ

2019年度9年生(中3)『卒業研究発表会』報告

中学校ニュース
1月25日(土)、今年度9年生(中3)の『卒業研究発表会』が行われました。前日には下級生(中1・2)向けの発表会、さらに今年度初めて小学校5・6年生を対象に発表会を持つこともできました。小学生の素朴でありながら、しっかり自分の頭で考えた鋭い質問に、嬉しそうに答える9年生、とても新鮮で豊かな時間をみんなで共有しました。
発表会当日は、廊下に一人一人の論文が並べられました。3月には全員の論文が入った一冊の論文集としてまとめられる予定です。

9年生131名、プレゼンの後、発表者には感想の書かれたたくさんのコメントカードが集まりました。さらに発表会から1週間後、卒研ボランティアの鈴木さんから当日見ていただいた15名の生徒のプレゼンについて、コメントが送られてきました。生徒本人にはもちろん手渡しましたが、是非この「中学校ニュース」でも紹介させていただきたく、ご本人のご了解を取らせていただき、何枚かの写真とともに掲載することにしました。 

<鈴木が見た発表についてコメントしましたが、ほかにも見たかった発表がたくさんありました。頼りない記憶をもとに書いているので、的を射ていないものがあるかもしれません。ご担当の先生を通して生徒の皆さんに伝えていただければ幸いです。>

(1)「クラシック音楽を聴く人が少ないのはなぜか」
「クラシック音楽を聴く人が少ない」という前提はどのような事実に基づくのでしょうか。CDやレコードの売上数か。あるいはダウンロードの数か。コンサートの入場者数か。発表の場でもデータの提示があると説得力があります。クラシック音楽のマイナス面として「眠くなる」ことを要因の一つとして挙げられていました。クラシック音楽の特性が人を気持ちよくすることだとしたら、それはプラス面としても考えられるかもしれません。クラシック音楽の魅力を上手に伝える方法を、ぜひ考えてみてください。

(2)「サンゴが抱える環境問題」
環境問題というと地球規模の視点で捉えがちですが、サンゴに焦点を絞り、現場で見聞きしたことをまとめた発表は説得力がありました。白化現象などサンゴの減少に大きな影響を与える海水温の上昇を防ぐ方法の提示もわかりやすいものでした。発表会の場でも提起があったように、個人のレベルを超えた取り組みについての考察が加わると、研究がより深くなると思います。

(3)「どうしたら障害者差別がなくなるのか」
藤石さんが最初に立てた仮説の通り、特別な教室や学校など本当は無くなればいいのかもしれません。しかし障害を持つ人たちも、そうでない人たちと同じように「健康的で文化的な最低限度の生活」(日本国憲法第25条)を営むためには、さまざまな配慮が必要であることも事実です。藤石さんが特別支援学校や学級で目にした配慮の数々は、例えば明星学園ではどうすれば実現できるでしょうか。ぜひ明星の環境に適応したインクルーシブ教育を考えてみてください。

(4)「なぜ日本人から着物離れが進んでいるのか」
着物離れの原因を、「好き嫌い」ではなく「人々の心」と「世間の動き」に見出したプロセスには説得力がありました。渡辺さんが着物を着て生活してみる実践は限られた時間でしたが、季節を越えて試してみることで、現代の日本において着物が持つ機能や限界が、よりはっきりと見えてくるのでしょう。それによって、日本の気候や生活、住環境が、過去からどのように変化してきたかということを、渡辺さん自身の実感として明らかにすることができると思います。

(5)「公園と子供〜子供が自由に遊べるようにするためには〜」
幼少期に感じた疑問、ふと目にした公園の看板から、現代の日本を覆うコミュニケーション不全の一端を明らかにした研究の展開は見事でした。何枚もの看板の画像は、時代の空気を読み解くための貴重な資料であるような気がします。なお、子どもたちが自由に遊べる空間を確保することは私たち大人の責任です。そのために大人たちがどのようなことをしているのか、何ができるのか、秦さんは注意して見ていくことが大切だと思います。

(6)「映画制作の上で一番大変なことは〜天野彪大の映画学〜」
残念ながら天野さんの映画を拝見することはできませんでしたが、映画制作に実際に取り組んでみたことがまず素晴らしいと思います。天野さんが直面した困難は、大きく分けて演出面と制作面の2種類があるでしょう。演技指導や編集などディレクター(監督)が采配する演出面の困難と、制作資金やスケジュール管理などプロデューサーが采配する制作面の困難です。2種類の困難に対して、プロの映画人はどのように乗り越えているのでしょうか。自身の経験を整理しながら、さらに掘り下げてみるといいかもしれません。

(7)「どうしたら同性婚が法制化されるのか」
社会の中で、自分らしく生きることが困難な人たちがいることに気づき、そのような人たちに寄り添おうとした研究だったと思います。結婚は法律上の仕組みに過ぎないという考えもありますが、同性婚を求める人たちにとって、法律の仕組みで守られることは「特別」ではなく「普通」になることなのだという気づきがありました。さて、LGBTと一言で言いますが、T(トランスジェンダー)はLGBとはまた意味が異なるそうです。Tの人たちにとっての結婚、も深く考えさせられるテーマかもしれません。

(8)「メディアとの付き合い方」
那須さんが、研究の素材として映画という最も古典的なメディアを取り上げたことが面白いと思いました。最近の映画を見たことによる気づきから、1930・40年代の映画に行き着いた思考のプロセスをもう少し知りたかった気がします。インターネットがメディアの主要な伝送路になった現在、那須さんが映画の中に見たプロパガンダは、様々な形でモニターに映し出されるようになりました。那須さんはそれをどのように受けとめるでしょうか。

(9)「オカダンゴムシの交替制転向反応の決定に関する感覚器官の影響」
私が中学生だった頃に比べると、ダンゴムシは小学生を中心に大変な人気者になりました。ダンゴムシに関する研究もいくつか目にしましたが、田口さんの研究はそれをもう一歩進めたわけですね。触覚を切断したり、視覚を制限したりという実験手法、厚紙で製作した実験装置はシンプルでわかりやすく、パワーポイントでの発表にとても適したものでした。個体を何匹使用してどのような結果が出たのか、ということもわかりやすく可視化できたらなお良かったと思います。

(10)「神戸毅裕による神戸毅裕のためのオリジナル走法」
6月の「してみる計画検討会」で計画を聞いた時から研究テーマは明確でした。発表会では、軸を2つ設定する走法やトレーニングなど新鮮な驚きがありました。世界のプロスポーツ界を見ても、競技力を伸ばし勝利に結実させるためには、地道にデータを蓄積するとともに、競技者自らにそれを分析してパフォーマンスの改善につなげる能力が必須であることは明らかです。日々のリアルな鍛錬とデータ分析は、どちらも神戸さんにとってとても有益なものになると思います。

(11)「AI社会の現代において、学校の必要性とは 〜学校生活が子どもの成長や発達に及ぼす影響」
AIやICT(情報通信技術)の導入が進めば学校に行かなくとも学習ができるようになるかと問われれば、おそらくできるのでしょう。しかし芦沢さんが学校生活の役割を、知識の吸収としての学習だけでなく、子どもの成長や発達に良い影響を及ぼすことだと考えたことは、大変大きな気づきだと思います。発表で紹介されたオランダの学校の姿は、私には明星学園の特長と重なる部分が多かったように思います。明星での生活が芦沢さん自身にどのような影響を及ぼしてきたのか、振り返って考えることも大切だと思います。

(12)「バレエを物理で考える」
人の重心の位置はみぞおちの少し上、ということを初めて知りました。バレエの先生から受けるアドバイスの意味が科学的に納得できるようになれば、日々のレッスンに取り組む姿勢にも良い影響があるでしょう。バレエの長い歴史の中で磨かれてきた動きやメソッドには、おそらく大変合理的な考え方が取り入れられているように思います。ピルエット以外の様々な基本的動作についても科学的に考察してみると、面白い発見があるかもしれません。

  (13)「数学と現実〜関数による未来予測〜」
藤田さんが取り組んだ研究は、いま大変注目を集めているデータサイエンティストとかデータアナリストなどと呼ばれる職業につながるものなのかもしれません。もし藤田さんがそのような領域に興味があるのであれば、数学や関数の学習を進める中で基礎的な考え方を身につけることは大変有益なことだと思います。水の使用という私たちの生活からは切り離せない事柄を、環境破壊と結びつけた考察には新鮮な驚きがありました。

(14)「プラスチックの色々」
ビニール傘からプラスチック素材に興味を持ったとのことでしたが、生分解性プラスチックに行き着いたところが面白いと思いました。30年以上前から研究が進められているそうですが、これまで私の身の回りで目にした記憶はありませんでした。森さんがタンパク質を利用してプラスチックを自作したこと、食べることを含めてその属性を様々な面から調べたことは大変重要なことです。今後急速に発展を遂げるかもしれない生分解性プラスチックの製品を、森さん自身の知見から評価できるからです。

(15)「井の頭公園のモグラ塚の分布」
誰もが気になっていたであろうことを実際に調べてみることは、大変価値のあることです。公園でモグラ塚の所在を確かめて回るのは骨の折れる作業だったと思いますが、大木の周りにモグラ塚が多いこと、理由として食料となるミミズが多いと推測できることなど、説得力のある発表に唸らされました。ほかにも出来あがったモグラ塚マップから見えてくることがありそうです。継時的な変化を追っていくことも面白いかもしれません。

(中学校副校長 堀内)