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1枚の絵から対話(哲学)が始まる ~ 中1(7年)「哲学対話」授業レポート③

中学校ニュース
7年生の哲学対話では、対面での対話が難しいためサイレントダイアローグに取り組んでいます。一つのテーマに対しAさんが意見を書き、Bさんに回す。BさんはAさんの意見を読み、自分の意見やAさんへのコメントを書く。次はCさんに・・・と最後には複数の人のコメントが積み重なって自分の手元に戻ってきます。サイレントダイアローグで自分の考えを読んでもらうことの嬉しさを知った7年生。取り組み始めた頃は書いた文章を隠して見せてくれない生徒もいましたが、今では、「見て〜!」と自分から書いたものを持ってくる生徒も増えてきました。

私は美術の教員なので普段は美術の授業を受け持っていますが、今年度は7年生の哲学対話の授業にも補助で参加しています。哲学対話の授業に参加し、最終的に自分の手元に戻ってきたサイレントダイアローグを読むと、誰かが自分の意見を読んで賛同してくれたり、違う視点の意見を読んで自分の考えが深まったりしてとても嬉しい気持ちになりました。そして、この7年生の素直でのびやかな感受性、思考力、表現力と卒業を控える9年生の美術の卒業制作を「鑑賞」を通して繋げられないか・・・と考えました。

そこで、先日、9年生の制作している卒業制作を使って7年生の哲学対話の授業で作品鑑賞のサイレントダイアローグに取り組みました。

まず、卒業制作のテーマが「都市の暮らし、まちの現実」であることと、多様な解釈が生まれそうな9年生の作品5点を提示しました。生徒は好きな作品を一つ選び、じっくりと作品を鑑賞します。例えばこの作品。みんなさんは何を表現していると思いますか?



「不気味な感じがする」、「扉の奥のアサヒスーパードライのビルはなにを意味しているのか?」‥。7年生は直感のイメージを大切に細かいところまでじっくりと観察し、自分なりの解釈を用紙に書き込みます。大切なのは自分の目で見て、自分の心で感じ、自分の頭で考え、自分の言葉で表現すること。作者の制作意図を当てることが目的ではありません。
「暗いイメージだと思った。(紫や茶色、青などの色が使われている。木が枯れ、波が激しい。1人ぼっちで立っているなどのことから。)発展する社会と枯れていく自然が同じ絵に描かれていることから、自然をおろそかにするなということが表されているのかなと思った。」
「枯れた木は自然がなくなっていく感じを表していて、扉のような白い長方形の奥にビル・都会のようなのが見えたから社会が海に飲み込まれる、崩壊して汚れた社会が海に飲み込まれて、それを取り戻したくて神に願いごとをしているのだと思う。」
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その後、作者の9年生がつけたタイトルと説明を発表しました。
先ほどの作品はこのようなものでした。
「見えていない景色」
私たちが見ている世界はほんの一部で、視界を広げればきれいな世界が見えてくる。それと、遠い道のりを越えたら、きっといい未来が待っている。

7年生たちは
「私は都市が描いていある扉を閉めようとしているのかと思ったけれど、開けようとしていた。色々な考えができて面白いなと思った。」
「私の感じたこととは少し違ったけれど説明を見て、それからもう一度作品を見るとなるほどなと思ったし、この絵は少し暗く寂しいなと思ったが、奥の方がピンク色でそういうことなんだと伝わってきた」
「世界のマイナスな部分だけ見ずに、視野を広げて見れば、自分に合ったいい道が見えてきそうだと思った。毎日、コツコツと努力を積み重ねれば、良い未来が待っているから頑張ろうと思えた。」
中には「えぇーーーーーーーっ!?そ・そ・そんな単純なもんだったの?いっぱい想像したのに!!!」という意見も。色々想像できたあなたもすごいし、そこまで想像させた絵の力も評価したいと思います。

この授業後、9年生には7年生からのダイアローグをフィードバックしました。「私の絵からこんなに色々考えてくれたなんて嬉しい」とか「思ったより意図が伝わっていない。もう少し描き加えたい」など9年生も7年生に刺激を受けて、卒業までの残りわずかの時間により良い方向を探ります。嬉しい相乗効果です。

7年生にも変化が生まれました。美術の授業の前に、美術室の壁に貼ってある新たな9年生の卒業制作の前に人だかりが! 作品を自分なりの見方で見る楽しさを感じてくれたようです。

例年、卒業式には全員の卒業制作を式場に展示、7、8年生も鑑賞する機会があります。ただ、今年はコロナの影響でそのような場を作ることができず、とても残念に思っていました。名画ではなく、直接クラブ活動などで関わりのある9年生の作品で、自分たちもやがて取り組む卒業制作、というのがサイレントダイアローグにはちょうど良いお題だったように感じます。日頃から何を言ってもいい哲学対話の穏やかな雰囲気が伸びやかな鑑賞を促してくれた有意義な時間でした。

(美術科 吉野)