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〖ほりしぇん副校長の教育談義〗(26)国語の授業『走れメロス』(太宰治)③人物像をとらえる

中学校ニュース
☆日々感じる中学生の姿、中学校での学びについて考える連載〖ほりしぇん副校長の教育談義〗(毎週土曜日配信)、7月から開始し、今年最後の配信は第26話となりました。今回は、『走れメロス』の授業を紹介する3回目ですが、人物像を考える授業の一端をご紹介します。ここに来て、ブログで授業実践を紹介することの難しさを感じますが、今しばらくお付き合いください。

(中学校副校長 堀内)


③人物像をとらえる

A メロスの人物像を考える(冒頭部分から)

テキストから根拠を抜き出しながら、メロスの人物像について対話していきます。単純ではありません。しかし、そこから以下のようなことが教室場で共有されていきました。

「邪悪に対しては、人一倍に敏感」とあるが、この「人一倍」とは誰との関係において言っているのだろうか。他の民衆は権力に逆らうことなど思いもよらないだろう。怖くて何も行動できない。しかし、メロスはすぐに行動に移してしまう。世間知らずだから行動できる。正義感があるから行動する。世間知らずだから純粋。

失敗すれば向こう見ず、無鉄砲と言われます。うまくいけば勇気があると評価されます。良いメロスと悪いメロスがいるわけではありません。メロスは変わりません。ただ、時に「勇気がある」と評価される場合もあれば、「向こう見ず、無鉄砲」と評価されることもあるのです。長所は、時に短所となって現れることがあります。逆に短所だと思っていたことの中にその人の長所が隠れていたりもするのです。性格を短い言葉で言い表すのはとても難しいことです。ましてや本文から言葉を抜き出すことだけで人物像を表現することはできません。

人間というのは多面的で、複雑です。にもかかわらず、引っ掛かりのある言葉によって主観的なイメージを作ってしまいます。それを自覚させる授業でした。それを意識させることで「表現」にも、目が行くようになります。もちろんクラスによってどのような意見が出るかは分かりません。

最後に次のような形で「まとめ」をノートに書いてもらうことで一時間の授業を閉めました。

(まとめ)この時間に学習したことを用い、メロスはどんな人物か、自分の言葉でまとめなさい。

〈8-3のノートから〉

・メロスは村の牧人である。村で暮らしているときはのんきであるが、邪悪と聞くと純粋にその悪を否定する。正義感の強い人間だが、世間知らずなところがたまにキズ。だが、行動力がある。(正義感と世間知らずなところと二つあるからすぐ行動できる。)家族構成は十六の妹との二人暮らしであり、両親はいない。町に竹馬の友がいる。(Kさん)

・メロスは正義感が強い。それから世間知らずという二つの点からふつうの人ではありえないようなことまでできてしまうというすごい人。一見世間知らずというのはマイナスに聞こえるが、世間知らずだからこそ王様に立ち向かっていける勇敢な人にもなれる。だが、普段は妹と二人暮らしで牧人生活をしていて、のんきに暮らしている。(Mさん)

・すぐに怒ったりするため、考えないで行動してしまうことが多い。でも人情は人一倍強く、物事がうまくいくことも多いため、見た目だけヒーローになれるタイプ(Kくん)



B 王ディオニスの人物像を考える(冒頭部分から)

王の人物像を表現するための根拠となる語句を抜き出すことを通して、今回もたくさんのつぶやきが教室から生まれました。そのプロセスこそが主体的な読みの姿勢を作ってくれます。そして最後に、次のような指示で授業のまとめをしてもらいました。

(まとめ)王の心の声(人の目を気にしない本音の王の心を想像してみる)をセリフで書いてみよう。

・「あのメロスという男・・・ずいぶんと簡単に言ってくれるわ。あの目、わしの周りにはいなかった――皆、よどんだ目をしおって、怖いといったらこの上なかった。いや、やめよう。あのことは、忘れるんだ・・・。殺すのがいけないというのは分かっている。もうとっくに分かっていたのだが・・・。」(Nさん)

・「どうせみんな信じられないんだ。嘘をつき、うらぎる。自分さえよければ、それでいいんだ。そんなやつらはみんな死んでしまえばいい。どうせわしは一人なのだ。一人でいいんだ・・・。」(Kさん)

・「今日、わしのところにメロスという男が来た。小生意気なガキじゃった。腹がたったが正当な理由で殺せるというのは気分がいい。いくらわしでも悪心を持っている人間だからといって殺すのは後味が悪い。(Kさん)

・「正直どうしていいかわからない。孤独な人間なんだ。もちろんわしだって平和を望んでいる。でも、人を信じることができない。疑ってばかりの自分が情けないけれど、どうすればいいか分からない。誰か、教えてくれないだろうか。」

・「わしだって、昔は人を信頼していた。親友とは違うが、賢臣のアレキスは誰よりも心を許せる相手だった。一国の王様という役目は大変だったが、わしなりに精一杯やっているつもりだった。しかし、わしの政治のやり方に反対していた人もいた。自分が王様になりたいと前から思っていた妹婿が、わしを暗殺する準備をしているところを、わしは偶然見てしまった。そこでわしは迷った末、妹婿を殺した。理由を知らない妹や后は不審に思い、だんだんわしから離れていった。あれほど信頼しあっていたアレキスまでも・・・。メロスは信頼しあっている友がいると言っているが、わしはそれを信じたくても信じることができない。もし戻ってきてくれたらいいが、そんなのは夢の話だ。人を信じていた頃が、遠い昔のように感じられる。わしはなぜこんなことをしているのか、自分でも分からない。もう一度、信頼しあえる仲間が欲しい・・・。

・「わしは二年前に一度、暗殺されかけた。その計画を立てたのは、わしの一番信用していた家臣だった。わしは、その家臣をだれよりも一番身近においていた。それなのに裏切られた。あれ以来、わしは身近にいる人というものが信じられなくなった。わしの地位を奪おうと機会をねらっているようにしか見えない。本当はわしだって幸せで、楽しい生活を家族とともに送りたい。でも、二年前のことを思いだすと、とたんにこわくなってしまう。だいたい愛を信じる心だけで結ばれている人などこの世にいるのか。いるなら証明してほしいものだ。」(Yさん)

・「わしは寂しい。あのメロスに孤独の心について言うたが、わし自身、わしの孤独の心も分かっていないのかもしれぬ。最初に義弟を殺してから、周りからの目線が一変してしまった。わしはこの頃、オリの外のライオンのような目で見られる。孤独の心は増していくばかりだ。」(Nくん)

・「わしは本当に孤独である。昔からずっと、誰かがわしのことをねたんでいると考えていた。誰かは分からないが、この人かもしれない、あの人かもしれないと考えているうちに、人を信じることができなくなってしまった。すると、周りにいる人全てが怖くなってきた。わしは自分のことをねたんでいる人が怖い。ねたんでいる人がいないのが自分にとって「平和」だと考えている。誰もわしの心の中を知ることはできまい。わしは怖い。平和がほしい。安心したい。」(Oくん)

・「わしは、怖くて仕方ない。あの妹婿だって、わしの地位ほしさに妹と結婚したのだ。そうに決まっている。だから殺したのだ。そしたらどうだ。皆、わしを軽蔑した目で見るのだ。だから殺したのだ。わしは、皆を思ってやったのに、村人だっていつ反乱してくるかわからない。ああ、わしはこわくてしかたがない。」(Nさん)

・「2年前に一番信頼していた人に裏切られてしまった。あの時以来、人を信じることができない。誰かが何か言ってくれる時を待っていた。でも、誰もわしをおそれて言ってくれる者はいない。今、メロスが言ってくれたのだ。・・・メロスの言うとおりなんだが・・・」(Nさん)



★本年は大変お世話になりました。次回の〖ほりしぇん副校長の教育談義〗は元日のためお休みし、1月8日(土)に配信いたします。どうぞ皆様、良いお年をお迎えください。