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〖ほりしぇん副校長の教育談義〗最終回(43)9年「卒業研究」の実践-⑪『「卒業研究」の1年』下

中学校ニュース
〖ほりしぇん副校長の教育談義〗最終回(43)中3「卒業研究」の実践-⑪『「卒業研究」の1年』上 からつづく


⑥ <6月初旬>「してみる計画」相談会

良い問いがあれば、おのずと仮説が立ちます。その仮説を検証するためには、どのような調査、取材、実験をしなければいけないか。たんに文献にあたるだけではなく、まさに自分の手や足や目や耳を使って行動する、それこそが「してみる計画」です。そのためには、さまざまな方のサポートが必要になってきます。

昨年の相談会では、生徒は10の教室に分かれました。また、中学校の全教員が各教室に割り振られました。7・8年(中1・2)はこの日短縮授業となり、中学校の全教員が9年生の教室に入ります。その上で、専門をお持ちの卒研ボランティアの皆さんがこの日は21名、学校まで足を運んでくださいました。

大学の研究者(東京工科大、東京外国語大、大妻大、目白大、一橋大、日大、東北大、元早稲田大)、恩賜上野動物園職員、裁判所、理化学研究所、元NEC専任エキスパート、小児科医、組織開発、システム開発、NHK、テクニカルライター、漫画家、エンターテイメントビジネス、絵画修復、国土交通省・・・。様々な分野のエキスパートの方々です。

生徒は一人一人、自分のテーマについて、また、どんな「してみる計画」を考えているかプレゼンしていきます。もちろん、何をしたらよいか具体化できていない生徒もいます。思いついていなければ思いついていないと、はっきり言うように指示します。ごまかすことからは何も生まれません。困っていると正直に言った方が必ず良いアドバイスをもらえます。生徒たちは互いに質問し、感想を述べあいます。その上で、教員やボランティアの方がコメントを述べます。さて、どんな「してみる計画」が実現するでしょうか?



⑦ <9月初旬>「してみる計画」報告会

夏休みに各自が実行した「してみる計画」の報告会です。グループごとに発表し、互いに質疑応答します。同時に、卒業論文の執筆に向け、結論に至るまでのアウトライン、「章立て」を練っていくことになります。「卒研ノート」にたくさんの文章やメモが書いてある生徒も、どれを採用し何を割愛するか決断しなければなりません。ましてや、これまでの研究の不十分さが露呈してしまった生徒にとっては、厳しい時期です。思うように進まなくなると、担当教員のところへ逆に相談に行きづらくなってしまいます。でも、そんな時こそ担当の教員とのコミュニケーションの大切さを思います。見通しが立てば、筆が進みます。

書き出すまでが最もつらい時期のようです。ある程度書き始めていくと、やっと「楽しくなってきた!」という声が聞こえてきます。



⑧ <11月下旬>卒業研究論文、データ提出

この時期、「初めて勉強で徹夜した!」という会話をよく耳にするようになります。あれだけ難しい顔をしていた生徒たちが、提出を済ませたとたん急にホッとした良い笑顔になります。そのような意味で締め切りがあるというのは現実問題として本当に大切だということを感じます。でも、正直なところここからが大変なのです。提出したのはいいものの、担当の先生の赤ペンがまだまだ入ります。12月の学期末は期末試験のための勉強に専念しなければなりません。実は冬休み中に学校にやって来て、担当の先生と1対1でパソコンに向かっている生徒は少なくありません。1月の始業式の日に原稿は印刷にまわします。実はこの日が前もって生徒には伝えていない内緒の締め切り日なのです。

また、冬休み中は発表用のパワーポイントのスライドづくりが課題となります。自分の研究を約5分のスライドにまとめなければなりません。ただ、論文を書き上げた生徒にとってこちらはそれほど負担ではないようです。自分で様々な工夫をします。生徒同士、教えあったりしている姿も見られます。今の中学生の、ビジュアルの面でのセンスには驚かされます。



⑨ <1月中旬>卒業研究発表会リハーサル

10の教室に分かれ、本番の発表を想定しながらパワーポイントでのプレゼンを行います。冬休み中に生徒たちがどのようなスライドを作ってきたか、この日明らかになります。司会やタイムキーパーも生徒が担当します。5分で収めるのは殊の外難しいようです。テンポよく話せるよう練習を重ねるか、説明の内容を一部割愛するしかありません。最も伝えたいことは何なのかが問われます。発表本番までの約1週間、真剣勝負が続きます。



このようにして、「中3卒業研究」の一年が終わります。そして、それは次年度の「卒業研究」の始まりの日ともなります。この実践を通してこれまで私は、さまざまな生徒と出会ってきました。そしてその生徒を通して、さまざまな方々に出会わせてもらってきました。とても豊かな営みです。

「なぜ中3に卒業研究を課すのか?」という問いは、私の中では「中学校は何のためにあるのか?」という問いと深い部分でつながります。そしてそれは中学生に最も伝えたいことでもあります。楽なことより楽しいことを!自由に生きるために、時に思い込みやうすっぺらな常識の眼鏡をはずし、世界を切り取るための複数の視点を持ってほしい。そのためにこそ、教科の授業があるのです。失敗を恐れず、自分の殻を破るために一歩、行動に移してほしい。その勇気を持てるよう、そっとその子の背中を押してあげることができる教員が私にとっての理想です。

新年度、またどのような生徒と出会うことができるでしょうか。

(完)