「明星學園設立趣意書」
大草美紀(資料整備委員会)
設立趣意書
幼き日の印象は人の生涯を支配します。幼き者の教養について社会がほんとうに覚醒せぬうちは民心の作興も思想の善導も庶幾されませぬ。もちろんこれは家庭・社会の風潮と至大な関係のあることで、ひとり小学校教育のみの仕事ではありませぬ。然し現代の世相をなした一半の責は過去の小学校教育も背負わねばなりません。さればわが子の行末を案ずる者、社会の前途を憂うる人はまず小学校教育の改善を計らねばなりません。輝く日光、新鮮なる空気、滋養に富む食物、是等三つのものはすべての成長の大要件です。地に樹つ草木、空に飛ぶ鳥、生とし生けるものは皆これ等によってその生命を伸ばすのです。幼い人の子の成長もまたそうです。然るに塵埃の巷に建てられた学舎、数十人を寿司詰にした教室は果してこの要件を満しえましょうか。よしや食物の研究が進み、医薬の新発見が如何に遂げられても、これでは幼い者をはぐくまれません。郊外へ! 陽の光を全身に浴び、清らかな空気を胸一ぱいに呼吸する郊外へ幼い者を救い出さねばなりません。
輝く理想、新鮮なる校風、生命に充てる教訓、是等三つのものは幼い魂の成長の大要件です。神と自然と人間の与うる聖い教を糧とし、温い友情の風を呼吸し、至高の理想に向って幼い魂は伸び上がるのです。浮草の如くに転々として定まらぬ教師と点数と競争で駆られる児童が雑然たる知識の断片の蒐集を事としている現代の小学校では幼い魂の伸びようもありません。新しい教育へ、幼い者を救い出さねばなりません。
かかる考をもって、森幽に水清き井の頭公園脇に一千坪の土地とささやかな学舎を得て、友情に燃える私たちが隠れた後援を誓われる一教育愛好者に励まされて新しい教育の樹立を企てました。思えば教育に身を捧げてここに十数年、互に紆曲の道を辿って遂にカナンの地を得た心地がします。どうかこのささやかな芽生えがよき成長を遂げますようにご援助を願います。
大正十三年三月
赤井 米吉照井 猪一郎山本 徳行照井 げん
顧問 文学博士 澤柳 政太郎
(学園創立にあたって児童募集のちらしに記した設立趣意書)
1924年(大正13)2月
『赤井・照井両先生生誕百年誌』より

