「社会立の学校 」―赤井米吉
大草美紀(資料整備委員会)
社会立の学校
赤井米吉
学園はわたくしが設立者ということになっています。しかしこれは法律上の手続でありまして、わたくし一人の設立したものではありません。照井夫妻、山本君の4人が一心同体で経営して行くのであります。がこの4人でも経営できません。この4人はここで仕事をするもので、ここの経営はわたくし共の陰にかくれて絶大な援助をして下さる人によってなされているのであります。この人は名を出すことを好まれませんので、暫(しばら)くかくれた人としておかねばなりません。むろんその人も自分の学園を作るつもりで助けて下さっているのではありません。この国、この社会の一教育機関を作るつもりで居られるのであります。これは全くこの社会のものであります。この教育機関を利用してわが子を教育しようと思われる方は、何人でもこれを利用することができます。
わたくし共には一個の教育上の理想があります。この理想を実現するために新しい学園を建てることが必要であると思って、ここに建てたのであります。しかしわたくし共の理想はわたくし共の私かな考えではありません。わたくし共はこの理想はわが国社会の理想であると信じています。この理想によってわが国社会の必要とする人物を養成しようと思うのであります。
かく経営においても、教育においても、ここはわれわれのわが侭(まま)勝手をするところでなく、わが国社会の一教育機関で、わたくし共は暫(しばら)くここに働くものであります。だから、「私立」といわれますが――むろん「公立」ではありません――いわば「社会立」であります‥‥‥ この意味において、御来会の各位に将来この学園の成長発達に対して深い御関心を持たれんことを希(こいねが)うのは、敢(あえ)てわたくし共への御援助を希う私的な希いではなく、わが国社会の発展を助ける「公」の義務であることを訴えたいのであります。
赤井米吉「お礼に代えて」『明星学園PTA会報』30周年記念号(1954年6月)2頁