「愛とおそれと」―照井猪一郎

大草美紀(資料整備委員会)

愛とおそれと
照井猪一郎
 私達は限りなく自由を愛した。しかしその言葉を簡単に丸のみにされることを極度におそれた。自由は個人の心理的なわがまゝを許すことではなかった。私達は慎重な用意のもとに、古いかせからひとまづ子供達をとき放したのだった。だがそれには子供達との間に深い理解ときびしい約束がうらづけられていた。
 自らの力で自らを守る自主のよろこびをえた彼等は、惜みなくその力をもちよって友達と助け合わなければならなかった。従って他人の自由を無視し、集団の秩序を乱すようなことをしては、それはそのまゝ自分の自由性の喪失であった。
 彼等は刻々におこる生活のめんどうをなくすために、つぎつぎに新らしい約束をつくらなければならなかった。
 当然、この約束に忠誠なものは信頼され、ルーズなものは非難された。こうした彼等の創設した新しい約束は、強い力を以って彼等の社会を支配した。それは大人のそれよりも遥かに実践的で、新鮮で、活発なものであった。
「あーららあらら。だれかさんがあらら」
 この合唱ほど彼等にとって手きびしい警告はなかった。こうして私達は彼等の自由を新らしい明るい世界に導き入れた。こゝで私達はあやまられたる自由教育と永遠のわかれをつげた。
 自主自立は人の意志を強く鍛える。個性尊重は人権不犯の原則で、正しい人格はこれに根ざす。自由平等は人間の生活を明朗にし、人類に永遠の平和を与える。
「強く――正しく――朗らかに――」この明星の教育語は永遠に愛誦されていゝ。
「誕生ものがたり」
『明星』25周年記念号1949年(昭和24)10月より

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