豊かな感性と型にはまらない柔軟な発想力

日産厚生会玉川病院 乳腺外科副部長、医学博士・理学博士 大石陽子(卒業生 55回生)




 明星学園100周年、心からお祝い申し上げます。
 私は小学校から高校までの12年間を明星学園でお世話になりました“スーパー内部”の55回生です。給食もない、制服もない、校則もない、ランドセルをしょったこともない。外部生からは「内部生は世間を知らない、世間はそんなに甘くない」と言われて、「へぇ~そーなんだぁ…。」とぽけらんとしていました。
 なぜ、両親は近くの公立小学校に入学させず、片道電車で45分もかかる学校に通学させることを選んだのだろうか?私は生まれつき片耳に奇形があり、髪も縮毛だったため学校でいじめられるんじゃないか…と両親は心配して、“自由な校風”で当時のラジオ番組『こども電話相談室』のパーソナリティをされていた無着 成恭先生が教頭先生をしていらっしゃる明星学園を選んだようです。小学校時代は一学年2クラスで私は2組。担任は須田 清先生、6年間クラス替えなし。須田先生は『にっぽんご』という教科書の著者の一人でもあり、全国の先生方が『にっぽんご』の授業を見学しに来ていました。6年間クラス替えがなかったこともあり、クラスはとても団結力がありました。





現在の仕事

 1994年3月川崎医科大学卒業後、東京医科歯科大学第一外科に研修医として入局しました。この医局は女性医師が入局したことがなく、私はいわゆる“第一外科女医第一号”と言われていました。外科専門医取得後乳腺外科を専門とし、癌研究所で乳癌の予後予測のための遺伝子発現解析研究を行っておりました。現在は二子玉川にあります日産厚生会玉川病院で乳腺外科医として勤務し、乳がん検診、乳がんの診断・治療(手術、乳房再建、化学療法などの薬物療法)、緩和ケア、授乳期乳房トラブルに対する治療などの乳腺診療をしています。



明星学園での思い出

 明星で過ごした12年間にはいっぱい思い出はあるのですが、その中でも高校の時に明星生でよかったと思った思い出をご紹介したいと思います。
 高校2年になった頃、母より「あなたは高校卒業したら、何がしたいの?」と聞かれ、その時初めて、将来何になりたいのかな?と考え、ふと医学部を目指してみようと思い、初めて塾に通い始めました。数学演習の授業では個々に数学の問題を解く授業なんですが、担当の先生から「授業中に早く問題を解き終わったら、塾の宿題をやっていていいぞ。塾の宿題でわからないことがあったら、遠慮なく聞きなさい。」と言われました。きっと、他校ではあり得ない光景だと思いましたし、明星の先生方にはとっても親身になっていただいて、お蔭様で現役合格することができました。



明星学園で養われた精神が今の仕事で生かされた瞬間

 私が大学院で乳がんの遺伝子研究を希望した20年前(2000年代初頭)というのはまだ、遺伝子診断が普及していませんでしたが、がんの遺伝子発現解析をすることが予後予測、治療効果予測に重要な役割を果たすはずであると確信していました。当時の外科の先輩方からは「遺伝子の研究をするくらいなら、たくさん手術見学をして技術面での修行をしろ!」と言われる、そんな時代でした。しかし、今では乳がんを始め医療全体で遺伝子を標的とした“分子標的療法”が主流となり、治療方針を決定するための遺伝子診断(コンパニオン診断)ががん診療に欠かすことのできない診断ツールとなりました。
 たとえ、当時『マイノリティと思われるような発想』だったとしても20年間経った現在、遺伝子研究における変遷とともに『型にはまらない柔軟な発想』とか『1歩も2歩も先を見据えた発想』と周囲からの評価が変わっていったことを経験しました。




未来の明星学園へのエール

  日常でもテレビなどで芸能・音楽で活躍されている卒業生を拝見したり、さらにリレーエッセイを拝見していても明星学園の卒業生はさまざまな分野でご活躍されていることを実感し、それはきっと学生時代に養われた『豊かな感性』の賜物だったのではないかと感じます。
 『型にはまらない柔軟な発想力』というのは裏を返せば“変わり者”と思われそうな発想かもしれません。“変わり者”と思われるのが怖いから自分の考えを口に出さないのではなく、明星で培われた『型にはまらない柔軟な発想力』に誇りを持って、自分の考えを口に出し、信念を貫くことの大切さ、そのユニークさが将来、社会に役立つことになるということを、明星を卒業して35年経った今改めて私自身も実感しております。
 明星は理系とか文系とかそういったカテゴライズすることのできない校風だからこそ、学生が十人十色、さまざまなことに興味を持ち、さまざまな夢を持った子供たちが休憩時間に中庭などに集い、横断的な交友関係ができていて、そんな環境だからこそ『豊かな感性』が育まれるのではないかと思っております。これからも『豊かな感性と型にはまらない柔軟な発想力』を持った“ユニーク”な人材育成をしてくださる明星学園を応援しております‼




大石 陽子

【プロフィール】
大石陽子(おおいしようこ)

1970年2月生まれ、明星学園55回生
現職:日産厚生会玉川病院 乳腺外科副部長、医学博士・理学博士
専門分野:乳がん遺伝子発現解析
主な業績論文:
・Oishi Y, Nagasaki K, Miyata S, Matsuura M, Nishimura SI, Akiyama F, Iwai T, Miki Y. Functional pathway characterized by gene expression analysis of supraclavicular lymph node metastasis-positive breast cancer. J Hum Genet. 2007;52(3):271-9
・Ohishi Y, Mitsuda A, Ejima K, et al, Breast implant-associated anaplastic large-cell lymphoma: first case detected in a Japanese breast cancer patient. Breast Cancer 2020;27(3):499-504

【略 歴】
1988年3月 明星学園高等学校卒業、1988年川崎医科大学入学
1994年3月 川崎医科大学卒業
1994年4月 東京医科歯科大学第一外科入局
2002年4月~2006年3月 東京医科歯科大学大学院入学
       癌研究会癌研究所 遺伝子診断研究部 研究生
研究テーマ;
『鎖骨上リンパ節転移陽性乳がんの予後を規定する機能ネットワークの解析』
2006年3月 学位取得
2006年4月 日産厚生会玉川病院 乳腺外科
2010年5月 埼玉医科大学総合医療センター 乳腺・内分泌外科講師
2018年4月 日産厚生会玉川病院 乳腺外科副部長
【所属学会】
日本乳癌学会 専門医
日本外科学会 専門医
日本癌治療学会 癌治療認定医
検診マンモグラフィ読影認定医