未来につなげたい大切なこと ~わたしがわたしであるために

コミュニケーション能力開発トレーナー、株式会社Feel Communication 代表取締役 桐生純子(元保護者)



 明星学園100周年、心よりお祝い申し上げます。

 不思議なものですね、今回のリレーエッセイに寄稿のお声がけをいただいたことで、一瞬にして当時の懐かしい校舎や校庭、明星学園の香りに包み込まれるのを感じました。それほどまでに私たち親子にとって濃い時間が流れていたのでしょう。

 我が家は息子二人がそれぞれに小学校からの9年間〝人生の基盤となる考え方や創造する力″を明星学園で学ばせていただきました。もうすっかり大人になった彼らと時間を過ごす機会があると自然に当時の話題になります。




息子達からの生きた課題が私の原動力

 ここで少し私自身の生業と明星学園への思いを綴ってみたいと思います。
 私の専門は「コミュニケーション能力の開発トレーナー」です。かれこれ30数年になりますが、現在では「組織改善コンサルタント」という肩書で様々な企業様の人材育成のサポートをしております。
さて、皆さんは〝コミュニケーション″という言葉を知っていますか!?今ではほとんどの方がご存じだと思います。なぜこのようなことを訊ねたかというと、ここ20年ほどで〝コミュニケーション″という言葉はすっかり日常に溶け込んでいますが、私がトレーナーとして活動を始めた1993年頃は今ほどコミュニケーションという言葉は一般的ではなく、必要性も今ほど語られてはいませんでした。例えばこんなことがありました。テーマは「親子のより良いコミュニケーション」ということで、講演会の講師として招かれた先で「洗脳するようなお話でしたら困りますが大丈夫でしょうか」と言われたのです。それも今となっては懐かしい思い出です(笑)。そのような理解されない思いは何度となく経験しましたが、当時はまだ〝コミュニケーション″というものが目には見えない聞き慣れないものだったからでしょう。

 それでも私が伝えることをやめなかったのは「私の目の前にいる思い通りにはならないこの二人の息子たち」から毎日のように生きた課題が投げられてくることで、私自身にとって毎日が学びの宝庫だったのです。生きた題材は単なる理屈では片づけることができず、今にして思えば、単に「仕事」という括りではなく私を突き動かす最も大きな伝える理由だったように思います。






コミュニケーション能力形成の原点は明星学園の学びから

 息子たちが明星学園に通わせていただいていた当時に少し話を戻しましょう。彼らを通して触れることができた明星学園の授業や様々な年間行事、先生方の子どもたちへの日々の関わり方など、どの場面を切り取っても私の研究テーマである「観察する力・正しく聴きとる力・わかりやすく伝える力・共感する力」を育む働きかけが根底に流れていたように思います。時には、まるで自分自身が明星学園に通っているかのように一人の母でありながら事あるごとにワクワクしたり感動していたのかもしれません。時代も大きく変わりましたので現在のことはわかりませんが、当時、先生方は保護者が子どもたちの授業を教室の後ろで参観することを積極的に受け入れてくださっていました。私も何度となく参観させていただきました。
 実は、その中で今でもとても印象に残っている授業の場面があります。幼いながらも自分なりの仮説を立てて発表をするのですが「意見が違うとそれに対して質問があり、それに対して簡単に取り下げるとかではなく、自分はなぜそのように考えたのかを自分の言葉で説明する」この過程が何度か繰り返されたわけですが、なんと36人中の35人に向けて最後まで自分の考えを説明しきった1名の出した答えに軍配が上がったのです。圧巻でしたね、まさに鳥肌ものの授業場面に偶然にも立ち会ったのです。

 そこには、何が正解かということ以上に〝お互いを信頼する力″〝違いを知ろうとする真っすぐな思い″が溢れていました。コミュニケーション能力形成のための原点があるこの環境で息子たちが学べていることに感動したことを今でも忘れることはありません。

 5年ほど前から明星学園のカリキュラムに「コミュニケーション、対話を重ねて、お互いを知る、深めていく」という『哲学対話』の授業ができたことを伺いました。これらは、人間形成に最も必要とされるものの、根付くまでには地味で地道で時間がかかります。この正解がない未知の分野の取り組みにいち早く『総合探究科(※1)』という教科を作ることは、これからの明星学園にさらに明るい未来を創造する新たなエネルギーになると確信しています。
※1 総合探究科=7年時履修:哲学対話、図書館と情報、8年時履修:探究実践(グループによる探究的学習)、
9年次履修:卒業研究(自ら課題を見つけ探究していく)


 今、世界が求めているコミュニケーションの力とは、相手に合わせて物事をうまくいかせることや、スマートに話しを続けるすべを身に着けるということではないと私は思っていますし、これまでも、そしてこれからも、そこを大切に伝え続けていくことこそが私にできる役割であり社会貢献だと信じています。





「違いこそめぐみ」を学ぶ

 私は「違いこそめぐみ」という言葉が好きで、講演会や研修の中でよくそのお話しをさせていただきます。例えば、あなたはどんな景色が好きですか?あなたの苦手は何ですか?あなたにとって勇気とはどういうことですか?と質問したとしましょう。あなたはそれぞれの問いに何と答えますか?
その答えは十人十色、そこに百人いれば百通りの感じ方、考え方が存在します。私たち人間は一人一人が違うからこそ面白いし、そこに豊かさや学びが生まれ成長することができるのです。

 風の時代(※2)に入り、これからはますます〝目には見えないけれどとても大切なこと″がどんどんフォーカスされていくことでしょう。実は〝コミュニケーション″という言葉が持つ意味や表現方法も私たち専門家の中でも様々です。それだけに、コミュニケーションや対話についての学びは、ますます目が離せない成長中の学問なのです。
※2 所有物など目に見える物より、情報や知識、コミュニケーション能力などの目に見えないもの
が重要視される時代


違いを乗り越えてホンモノの「共感」へ

 最後に私からお伝えしたいのは、コミュニケーションや対話についての学びは、あなたはこの地球上で唯一無二の大切な存在であると知ることです。それは、〝あなたがあなたらしくあるため″に、先ずは自分が大切にしたいのは何なのかをよく知ることなのです。そして次に、どうぞあなたの目の前のお相手もあなたと同じように大切にしたいことがあると関心(心の目)を向けてください。時には思いが上手く伝わらずに心を痛める場面もあるかもしれません。ですが、「違いこそめぐみ」です。そこには違いを乗り越えお互いを理解したホンモノの「共感」が生まれるのを実感できるはずです。

 いつか、あなたと、この大切なことについて語れる時がありますことを願って私のメッセージを閉じたいと思います。ありがとうございました。







桐生純子

【プロフィール】
桐生 純子 きりゅうじゅんこ 

組織改善コンサルタント、株式会社Feel Communication 代表取締役
富士銀行勤務(現・みずほ銀行)を経て、子育て、米国プログラムの研修会社で教育トレーナーを経験の後、それまでの研究と実践をもとに起業し現在に至る。心理学を土台にしたコミュニケーション環境改善のコンサルティング、組織におけるこころの栄養の作り方、相手の心を掴むリダーシップを基本に現在までに20万人のコミュニケーション能力開発トレーニングに携わる。

コミュニケーショントレーナーとして30年以上のキャリアから「コミュニケーション能力は生きるための力」と捉え、単なるスキルにとどまらず「気づき」と「感性」を磨くことに力を入れるオリジナルプログラムを開発し「相手を思いやるコミュニケーション」の重要性を伝え、数多くの事例をもとに行う講演や研修は具体的でわかりやすいと幅広い層で人気があり、年間200本を超える人材育成講師。

・保有資格
キャリアコンサルタント(厚生労働大臣認定 国家資格)
GTIリーダー訓練法トレーナー、青山学院大学社会情報学部ワークショップデザイナー
日本エニアグラム学会 認定ファシリテーター、心理カウンセラー
日経BPコラムニスト・【12年連続】日本ファイナンシャルアドバイザー協会コラムニスト

・著書
こころのスイッチ~幸せのサイクルを手に入れる方法

・主な講演実績・研修実績(一部抜粋)

NEC、RICOH、日本通運、青山学院大学陸上競技部(駅伝)、富士通㈱、三井造船労働組合連合会、キャタピラージャパン、キヤノン労協ネット、コニカミノルタ、富士フイルム、日立建機、ブリヂストン、 新日鉄住金㈱、イオングループ労連、NTTコミュニケーションズ、NTTタウンページ㈱、シチズングループ労働組合連合会、みずほ銀行、秋田銀行、大分銀行、横浜銀行、千葉興業銀行、静岡銀行、東邦銀行従業員組合、十六銀行従業員組合、紀陽銀行従業員組合、足利銀行職員組合、岩手銀行労働組合、 百五銀行従業員組合、七十七銀行従業員組合、三菱自動車工業労働組合本部、キヤノンプレジョン労働組合、日立アプライアンス労働組合、日東電工、愛知労連、ニラックス労働組合、大分キヤノンマテリアル労働組合、JA共済連宮崎、 新潟県建設業協会女性部、中日本高速道路㈱、日本イーライリリー㈱、中外製薬㈱、 ㈱大塚商会、島根県老人福祉施設協議、 愛媛県看護協会、山梨看護協会、エフビー介護サービス株式会社、富士宮介護事業者連絡協議会百恵の郷、日本歯科医師会、JAIFA各県協会研修会、生命保険修士会、ソニー生命保険、日本生命保険相互会社、 住友生命保険相互会社、アフラック、AIGスター生命保険、朝日生命保険、住友生命保険、東京商工会議所、各県JC、早稲田大学、東京青年会議所、日能研 (一部抜粋)