考える力、信じる力

千葉大学理学部 准教授、理学博士 高橋佑磨(卒業生67回生)




発想の転換


 先生はお休み。授業は自習。あれは、たぶん6年生のときです。先生が来なかったことと関係しているのか覚えていませんが、冷たい雨の日でした。右から2番目で、前より後ろから数えたほうが早いような席に私は座っていました。もちろん、古い校舎です。休みになったのは算数の授業で、ピンチヒッターは体育の先生か国語が専門の先生。子どもながらに、なんとなく、算数から離れたイメージの先生だった記憶が残っています。
 とっておきの問題だったのか、急遽用意したちょっと算数っぽい問題だったのかわかりませんが、先生はいくつかのクイズをもってきてくれました。覚えているのはそのうちの一つで、次のようなクイズです。

 横から見ると凹型で、上から見ると二重の長方形に見えるのはどんなものでしょう?この紙を使って作ってください。


 ヒント 



*答えは一番最後を見てね。

 渡されたのは一枚の白い紙です。まずは、誰でも口の空いたティッシュ箱みたいな直方体を目指して試行錯誤します。でもこれではだめ。横から見たとき凹型には見えません。絶対に発想の転換が必要です。私は直ぐに頭を切り替え、頭にこびりついた「四角の魔物」を払いのけました。自由な発想を心がけました。そうしたら、すぐに思いつきました。
 答えはそんなに難しいものではありません。ティッシュ箱じゃなくて、トイレットペーパーの芯です。トイレットペーパーの芯を横倒しにして上部のアーチ部分に長方形の小窓を開けたような形です。横から見ると凹型で、上から見ると二重の長方形。私は誰よりも早く解けていた自信があります。ただ、なにか作るとなればとことんきれいに作らないと気がすまない方でしたし、なにしろ恥ずかしがり屋だったので、すぐに先生に答えをもっていくことができず、「一番乗り」は叶いませんでした。でも、だれよりも早く解けていたと思っています(思えていることが私にとっては重要なので、事実と違っていてもご容赦ください)。
 私は1年生から9年生まで明星学園で過ごしました。日々の授業で、さまざまなことを深く考える心構えや、ものの考え方を学びました。個々の授業の思い出を語ったらいくつもありますが、この自習の時間は、私の人生に大きな影響を与えました。ただのなぞなぞみたいなクイズですが、発想を転換することの大切さを身にしみて感じました。そして、発想の転換をして思いついたときの快感を今でも忘れません。あの自習の時間のあのクイズは、数えきれないほど受けた刺激の一つに過ぎません。あのころの授業や遊び、クラブ活動、先生との会話が、今の私を形作っています。個々のエピソードを話していると、いくらスペースがあっても足りないので、それらは別の機会にでも。




昆虫クラブと科学での学び

  
 ちなみに、私は、授業もさることながら、クラブ活動が当時の原動力でした。4年生から昆虫クラブに入り、顧問の和田武久先生に昆虫のことをたくさん教わりました。先生や家族と、いろいろなところに虫採りに行きました。好きなことを見つけたという感覚があり、学校生活がより楽しくなりました。中学にいっても昆虫好きは冷めず、この頃には、「将来、科学者になりたい」と夢見るようになりました。昆虫が好きといえばそうだったのですが、それよりは、昆虫を通じて新しい世界に触れ、さまざまな発見をすることが楽しかったのです。高校は別の高校に進学しましたが、和田先生に会いに校長室に通ったものです。先生と虫の話をするのは楽しかった。なにより楽しかった。
 その後は目立った紆余曲折もなく、私は現在、科学者をしています。大学で教員をしています。専門は生物学で、もっと具体的に言うと進化生態学という分野の研究をしています。昆虫の研究も今でも続けています。さまざまな生物を使いながら、生物の中に見られる個性や多様性(ダイバーシティー)がどのように進化するのか、また、個性や多様性は生物の栄枯盛衰にどんな影響を与えるのか、を調べています。もちろん今は学生に教える立場になったので、学生たちには発見の快感を味わってもらいたく、さまざまな工夫をしながら(できているかな?)教育活動をしています。

 技術も、ものの見方も日進月歩。技術の発展によってこれまで見えなかったことが観察できるようになったり、新しい発想によって誰も見たことのない現象を観察できるようになったりすることで、科学は日々「発見」を続けています。その結果として、教科書の不正確な表現は正され、間違った情報は書き換えられています。これまでがそうだったように、現在の教科書や論文、本に書かれていることは、多かれ少なかれ誤りがあるし、今後、書き換えられていくはずです。科学を発展させ、教科書を書き換えていくには、「常識を疑うこと」、「周りの意見に流されすぎないこと」、「自分でちゃんと考えること」が何よりも大切です。あまり考えず、過去と同じこと、みんなと同じことをしていても、きっと大発見はありません。私にとっては、明星学園での生活での最大の収穫は「自分で考えて行動すること」の大切さを徹底的に教えてもらったことです。周りと違う研究を続けるのはパワーのいることですが、自信をもってその研究に邁進できるのは、「違うことを誇りに思わせてくれる」教育を受けてきたからです。

問いの答え





高橋 佑磨

【プロフィール】

高橋佑磨

1983年9月生まれ、
現職:千葉大学大学院理学研究院生物学研究部門 准教授、博士(理学)
専門分野:進化生態学、特に多様性の集団生物学

所属学会:個体群生態学会,日本進化学会,日本動物行動学会,日本生態学会,種生物学会,日本植物分類学会,日本サイエンスビジュアリゼーション研究会

主な業績論文:
1. Takahashi, Y., J. Yoshimura, S. Morita and M. Watanabe (2010) Negative frequency-dependent selection in female color polymorphism of a damselfly. Evolution, 64: 3620–3628
2. Takahashi, Y., K. Kagawa, E. I. Svensson and M. Kawata (2014) Evolution of increased phenotypic diversity enhances population performance by reducing sexual harassment in damselflies, Nature Communications, 5: 4468.
3. Takahashi, Y., R. Tanaka, D. Yamamoto, S. Noriyuki and M. Kawata (2018) Balanced genetic diversity improves population fitness. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 285: 20172045.
4. Takahashi, Y. and S. Noriyuki (2019) Color polymorphism influences species’ range and extinction risk. Biology Letters, 15: 20190228

学歴
2006年3月 筑波大学第二学群生物学類 卒業
2010年11月 筑波大学大学院生命環境科学研究科 生命共存科学専攻 修了

職歴
2010年12月〜2013年3月 日本学術振興会特別研究員
2012年5月〜2013年3月 ルンド大学 進化生態学ユニット 客員研究員
2013年4月〜2014年3月 東北大学 学際科学フロンティア研究所 助教
2016年8月〜2017年3月 千葉大学 特任助教
2021年8月〜現在     千葉大学 大学院理学研究院 准教授

受賞歴
日本進化学会研究奨励賞
文部科学大臣表彰 若手科学者賞
日本生態学会宮地賞
日本動物行動学会賞
個体群生態学会奨励賞
日本生態学会奨励賞(鈴木賞)