【9年】この人に会いたい!(社会科編)新井勝紘さん:五日市憲法を「歴史」にする―私の体験・土蔵から発掘して58年―

11月に9年生の社会の授業で「民衆がつくった憲法」という単元で、五日市憲法を取り上げました。自由民権運動の中で作成された五日市憲法は、当時の五日市(現在の東京都あきるの市)の人々による講談会や討論会の実施が草案に活かされ、国民の権利に関わる内容も多数盛り込まれた優れた私擬憲法であると評価されています。しかし、授業で条文を見ていくと、女性の参政権は認められておらず、国民の権利にも「法律を遵守するに於いては」と条件が付いていたり、徴兵制が盛り込まれていたりと「課題」も残っていることに気づきました。

そこで、9年生から出てきた疑問を、五日市憲法を最初に手にして、長年研究されてきた歴史学者の新井勝紘さん(元専修大学教授)に聞いてみたいと連絡をとってみたところ、1月21日(水)に来校してお話していただくことになりました。

まず、五日市憲法との出会いから。新井さんが五日市憲法と出会ったのは大学4年生。高校生時代は、演劇部にのめり込んでいたこともあり、大学に入学したのは高校を卒業してから2年後。縁のあった東京経済大学に入学し、たまたまとった色川大吉教授の歴史の講義が面白く、歴史学の道に進むことにしたそうです。そして、大学4年生の夏合宿の調査で、当時、“開かずの蔵”と呼ばれていた深沢家の土蔵の調査の許可がおり、その時に出合ったのが和紙24枚綴りの文書だったそうです。それが五日市憲法草案でした。見つけた当初は、大日本帝国憲法を写し取ったものだと思ったそうですが、書かれていたものを見ていくと、全然違う!!まだ知られていない私擬憲法だということに気づき、研究することに決めたそうです。

多くの9年生が気になっていたのが、長年研究をしてきた新井さんは、五日市憲法のどの条文に惹かれるのかということ。新井さんは、3条、4条、5条、6条、11条、14条、15条、16条、23条、24条を挙げてお話してくださいました。その中でも、「法律上において平等の権利」を認めている4条は、いちばん光っている!!5条にある「身体・生命・財産・名誉を保固する権利」が「内外国人ヲ論ゼズ」と書かれていることも素晴らしい。今の日本国憲法でも認められていないことが認められている。今、在日の人には選挙権が与えられていない、朝鮮学校にも補助金は下りていないといった問題がある中、この時代に日本人か外国人かは関係ないというのはとても画期的であるということを話してくださり、はっとさせられた9年生が何人もいたようです。そして、16条は、とても長文。それはやはり法律のプロではない「素人」が作っているから長くなってしまっているけれど、政府が違憲なことをすれば、国会がそれを拒絶する権利があるということが盛り込まれていることも重要だと思うし、14条では、「教育の自由」を盛り込んでいるところ(日本国憲法には学問の自由は明記されているが、教育の自由とは書かれていない)にも惹かれるとお話してくださいました。

また、五日市憲法を読んでいくと、矛盾する内容があることも9年生の気になるポイントでした。特に女性に参政権が認められていないことに関しては、当時の社会の常識を考えると、女性にも参政権を認めることまでは考えつかなかっただろうし、仮に女性にも参政権を認めていたら、その草案は認められなかったかもしれないとのことでした。新井さん自身も、自分たちで憲法を作ってみようとしたことがあったそうですが、実際に考えてみると、全体として矛盾なくつくるのはとても難しいということに気づいたそうです。法律の専門家ではない民衆が作ったものだからこその限界、やむを得ないのではないかということでした。

今回、新井さんが五日市憲法を複製したものをご持参くださいました。複製秘話も教えていただいて、みんな興味津々。1時間という短い時間にたくさんのことをお話していただいたので、講演が終わってからも新井さんの周りに9年生が何人も集まり、質問攻めとなりました。特に、外国人の権利について関心がある9年生が多かったようです。



この日のために2週間ほどかけてお話することやレジュメをまとめてくださったそうです。卒業研究発表会を終えたばかりの9年生にとって、58年も「卒研」を続けている新井さんに驚きと尊敬の眼差しが注がれました。しかも、自分の「発見」が今や教科書にも書かれるものになっていることへの誇りは、9年生たちにも感じるものがあった様です。そして、何よりまだまだ研究を続けたいという想いを持ち続けられていることに感嘆の声があがっていました。とても寒い日に明星学園までお越しいただき、本当にありがとうございました。

最後に、9年生から寄せられたコメント、メッセージを紹介します。
★矛盾のない憲法をつくるのがすごく大変だとわかった。元々歴史が好きとかではなくても、教科書に載るような発見をしていて、人生何があるかわからないと思った。

★女性に選挙とかの権利がなかったのは、当時の世間的に厳しくて仕方ないことなんだと思い、でもやっぱり疑問に感じました。

★授業の時には疑問に思っていた「平等って書いてあるのに女性などに参政権がない」というのに引っかかっていたけど、たしかにその時の時代背景を考えたら別に特別おかしなことじゃなかったということに納得した。

★矛盾した条文について、素人が書いた憲法だから仕方ないとおっしゃっていて、納得した。女性に選挙権がなくとも平等と捉えてしまうくらい男尊女卑の考えが根強かったのかと感じた。

★昔は女の人や病気を持っていたり障がいがある人は、選挙権を持っていなくて、でもそれが当たり前だったのかと思うと気持ちが複雑になる。どうしようもないことだけど、どこか悲しい。

★五日市憲法には今の日本にないいいことが多くあり、私的には、外国の人を受け入れるというのは、今の日本人ファーストなどをかかげている日本には必要なように思えます。様々な人の考え方や違いはあるけど、この五日市憲法がもっと昔にたくさんの人に知られていたら今の日本は大きく変化していると私は考えるし、実際そうだと思います。それぐらいこの憲法は、大きなものであるということを今回、知ることができました。

★新井さんは、この五日市憲法は見つけたときに、自分の人生が決まったということをおっしゃっていてすごい貴重な経験をした人なんだと、新井さん自身のことも知ることができてよかったです!!千葉卓三郎さんのことを今、私たちは知っているけど、最初はその人の情報はとても少なくて、この人のことを知るために子孫に会ったりと、五日市憲法について詳しく調べていってくれたことで、教科書に載ったり、授業に出てきたりしていると改めて実感し、感慨深かったです。

★一つのことについて何十年も調べられているのはとてもすごいと思いました。五日市憲法の差別をせずみんなに自由と権利があるというのは、とてもすごいことだと思いました。日本はほかの国に比べてたしか海外から移住してきた人が少ないそうです。実際に五日市憲法が世に出ていたら、日本は今どうなっているんだろうと思いました。

★自分も憲法案作ってみるとしたら、こんなの入れるだろうなーっていうのが入っていてすごいなって思った。五日市憲法を作った中心になった千葉卓三郎さんとか深沢名生・権八三の性格とか経歴についてもっと知りたいなって思った。あとは五日市憲法を作る過程の話し合いの記録とか残ってないのかなとも思った。それと関係ないけど、演劇しているところを見てみたいです。

★今とは違う固定概念というか当たり前がある時代に、市民が頑張って考えた憲法にたくさん共感しました。新井さんのお話を聞いて、私が一番好きだなと思った五日市憲法の特徴は、基にした憲法案と特に違うところが「国民の権利」というところです。204もの条文がある中で、一番大事にしていて、こだわりがあるのが、国を作っている国民に対する権利であることにすごいと思いました。 

★個人的には、今現在の日本国憲法よりも五日市憲法のほうがいいなと。内容が人種的な差別がなかったり、女性天皇がいてもいいという、昔の人の考えにしてはすごくいい考えだと思いました。

★他の憲法(案)と比べるところで、現代の憲法に近く、今より進んでいる一面がある一方で、「女性」などは世の中もあり、古い一面もあるところが面白いと感じました。今の私たちの考えていることと、当時の人たちが考えていることは大きくは変わらないということも新たな発見でした。

★五日市憲法をつくるにあたってたくさんの話し合いがあって文が長くなっているというのを聞いて、みんなで憲法を話し合うのは大変だけど楽しそうだと思った。

★最初にお話されていた「黙っていると歴史にならない」というのは本当にその通りだなあと改めて感じました。


(9年社会 小畑典子)

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