7年学年主任あいさつ

ここに集まった新入生、そして保護者のみなさまはこれまで多くの人から「入学おめでとうございます」という祝いの言葉を受け取ったことでしょう。ただ、私がこの場でその言葉を贈ることには、なぜだか躊躇をしてしまいます。

先ほど学年のスタッフの紹介がありましたが、私の担当する教科は何か覚えていますか? そうです。国語です。よく覚えていましたね。そこで、さっそく「おめでとう」という言葉について考えてみましょう。この言葉は昔「めでたし」と使われていました。昔話で「めでたし、めでたし」という物語の終わりの言葉を聞いたことがある人も居るでしょう。昔の人たちは「めでたし」を「立派だ、素晴らしい、喜ばしい」などの意味で使っていました。元来の意味から考えるとみなさんの入学を祝う言葉としては間違っていないように思えます。となると私の違和感の正体はいったい何なのでしょうか。

私にとって今日という日は、これからこの明星学園中学校で一緒に生活をしていく新しい仲間との出会いの日で、そしてその新しい仲間達が初めてお互いに顔を合わせるのがこの場なのだという気持ちが強くあります。私はそんなみなさんを迎え入れる側の人間です。ここまで考えて、誰かを迎え入れるときに「おめでとう」と言うことに対して違和感を抱いているのだと思い至りました。例えばこれから生活を共にする結婚相手に対して、「結婚おめでとう」と言わないのに似ているかもしれません。

みなさんに贈る、今の私の気持ちにふさわしい表現は次の言葉です。「ようこそ、明星学園中学校へ。そしてこれから共に学校生活を送っていく仲間としてよろしくお願いします」という「初めまして」の挨拶のようなものです。もしかしたら私の言語感覚は一般的な感覚からは、ずれているのかもしれません。しかし、今の気持ちに出来るだけ近い言葉を見つけて伝えられたときに、その言葉は力強いものになるのだと思います。みなさんもぜひ自分の気持ちに耳を澄ませて、本当にこの言葉でいいのだろうか。もっと自分の気持ちにふさわしい言葉があるのではないか。とじっくりと探りながら、自身の言語感覚を磨いていってほしいと願います。

 さて、春は出会いの季節でもありますが、別れの季節でもあります。約1ヶ月前には、この体育館で、今日と同じようにここにひな壇をセッティングし、卒業式が行われました。明星学園中学校では毎年卒業生が何曲か合唱をするのですが、最近はそのうちの一曲に「Climb Ev’ry Mountain」という曲を歌っています。タイトルは「すべての山に登れ」という意味です。

明星学園中学校は山とも縁が深く、かつては各学年で登山行事がありました。最近は昨年度まで7年生全員が参加する八ヶ岳登山行事がありました。今年度からは少し形態を変え、八ヶ岳登山は夏休みの有志行事となります。では7年生の宿泊行事はどうなっちゃうの?と思う人もいるでしょう。今年度は、6月に23日の自然教室を計画しています。そこでは今までの本格的な登山とまではいきませんが、宿泊施設の近くの山をハイキングで登頂する予定です。

 ところで、なぜ人は山に登るのでしょうか。そこには様々な理由があり、人によってそれは変わってくるでしょうが、1つ私が考えたことがあります。それは単純ですが、頂上に辿り着きそこから見える景色を全身で感じるためです。仮に、今ここにどこでもドアがあったとして、みなさんとどこかの山頂に行ったとします。そこには美しい景色が広がっていることでしょう。しかし、実際に自分の足で歩いて辿り着いたときに見る景色とは全く異なった景色が見えるはずです。先ほど89年生の和太鼓部による演奏がありました。彼らの姿を初めて見たみなさんの中にも、迫力と巧みさが入りまじったパフォーマンスに感動した人もいるでしょう。私は昨年度、7年生の担任として現8年生と1年間を過ごしてきました。その中ではすべてが上手くいったこと、楽しかったこと、苦しかったこと、悲しかったことなど様々なことを共に乗り越えてきました。今日のパフォーマンスには、そうした1年間の歩みが繋がっています。私が見た景色にも、この1年間彼らと過ごした時間が詰まっているのです。ばちを振り降ろして太鼓を鳴らす姿を見ていると、走馬灯のようにこの1年間の記憶が今の姿と重なって見えるのです。この景色は、7年生という山を一緒に登り切ったからこそ見えるのです。

 このように、山を登るということは比喩的に使われることも多くあります。「Climb Ev’ry Mountain」は、映画「サウンド・オブ・ミュージック」の劇中歌ですが、この映画でも様々な困難が待ち受ける人生そのものを山登りに喩えています。新入生のみなさんはこれまでどのような山を登ってきて、これからどのような山を登るのでしょうか。明星学園中学校という山、7年生という山、部活動という山、苦手な教科という山など、数えだしたらキリがありません。挑む山によっては簡単に登れてしまう山もあれば、苦しく困難な山も待っていることでしょう。一人で登れる山もあれば、共に登る仲間が居るからこそ、頂上に到達できる山もあることでしょう。どんな山でも一歩一歩しっかりと自分の足で登っていけば、いつかは頂上に辿り着けます。一度失敗してもまたやり直すこともできます。他の山を登って経験を積んでから再挑戦することもできます。様々な山に登って、そこから見える景色を存分に味わってください。

最後に、保護者のみなさまにはお願いがあります。小学校から中学校に進むと様々な変化が訪れます。子供のステージが変われば、大人の子供への接し方のステージも変わります。子供たちは今まで以上に、自分の足で山を登ろうとするでしょう。そこでは困難もあることでしょう。その時に、手を引っ張ってあげるのではなく、おんぶしてあげるのでもなく、代わりに登ってあげるのでもなく、少し遠くから見守っていてください。もしくは、たまに後ろからそっと支えたり、踏み出せないでいるときは一押ししたりしてあげてください。大人の視点から見ると、こうすればいいのにともどかしく思うこともあるでしょうが、大人の視点で道を示してあげるのではなく、子供たちの考えを引き出してあげてください。そして、何か困ったことがあったときには、我々にご相談ください。まずは1年間、生徒・保護者・学年の先生たちと共に7年生という山を登っていきましょう。そして、約3年後に迎える卒業式で、彼らがこのひな壇でどのような景色を見ているのか、そしてどのような姿で「Climb Ev’ry Mountain」を歌っているのか、一緒に楽しみにしましょう。

2026年度7年学年主任 佐藤翔哉)

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