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7年(中1)『哲学対話』授業レポート②サイレントダイアローグ

中学校ニュース
「緊急事態宣言」が発令されている中の「哲学対話」の授業。マスクをつけていたとしても、輪になって対話することができません。そこで今日の7年(中1)の授業は、サイレントダイアローグ。
私(哲学ネーム:ほりしぇん)も授業に参加しました。テーマは「正義って何?」みなさんはどのように説明しますか? 一緒に考えてみましょう。

授業はプラトンの『ゴルギアス』の次の一節を読むことから始まりました。

《カリクレス:ぼくの思うに、自然が教えてくれるのは、優秀な人は劣悪な人よりも、有能な人は無能な人よりも、多く持つのが正しいということである。つまり、それは他の動物の場合でもそうだけれども、特に人間の場合でも、これを国家と国家の間とか、種族の間とかいう、全体の立場で考えてみるなら、そのとおりなのである。つまり、正義とは、強者が弱者を支配し、そして弱者よりも多くを持つというふうに、すでに決定されてしまっているのだ。

 ソクラテス:ところで、カリクレス、自然の正義とは、どういうことだろうか。強者は、弱者のものを力ずくで奪い、優れた人は劣った人を支配し、そして立派な人はくだらない人よりも、多く持つという、そういうことなのかね?

 カリクレス:そう主張するよ。》

その上で、生徒は「正義とは何か」、自分の考えをプリントに書き込みます。制限時間8分。私も挑戦しました。8分という時間のなんと短いことか。悩んでいる余裕はありません。頭に浮かんだことを書いていきます。

《ほりしぇん:自然は支配するされるの関係ではないと思う。弱肉強食というのは表面的なことで、すべては自分の種族が生き残るようにつながっているのだと思う。その中の一つでも絶滅してしまうと、自然界のバランスは崩れてしまう。正義を考えるとき、自然の教えを参考にすることは重要だが、私はカリクレスに賛成しない。自分らしく生きること(自分勝手とは全く違う)が正義であり、それを許さない支配は正義ではない。問題は「自分らしく生きる」とはどういうことかを考えることだ。》

各自が書き込んだプリントはいったん回収され、アトランダムに配りなおされます。受け取ったプリントに書き込まれた意見にコメントを書きます。約7分。時間がありません。必死に書いています。そしてまた回収。これを3回繰り返し、最後に自分のプリントが戻ってくるわけです。
私のプリントも戻ってきました。3人のコメントが書き込まれています。どんなコメントが書いてあるのだろう。ドキドキです。

コメント①
”自分らしく”生きていくためなら、戦争をするというのも含まれるのでしょうか? 戦場なら”自分らしく”いられるような人が集まって戦争をすると、それに巻き込まれる人も出てくると思います。
コメント②
私はみんなが自分らしく生きられることが正義だと思います。戦争をすると結局自分らしく生きられないことがあると思うので、最初から戦争しないほうが、自分が自分らしく生きられると思います。
コメント③
私は、ほりしぇんの意見に賛成です。”自分らしく生きる”ということが大切だと思いました。

3人のコメントを読んで、正直とてもうれしくなりました。匿名なのでだれが書いているかはわかりません。私の書いた意見をしっかり読んでくれて、自分の意見を返してくれる。それがどれほどうれしいことなのかを生徒と一緒に活動してみて改めて感じました。①のコメントは質問の形で返してくれて、対話を深めるきっかけを作ってくれています。②のコメントは①のコメントを受ける形になっています。誰が書いてくれたのかがとても気になります。でも、このクラスのどこかにいるというような分かり方が、逆に心をほっこりさせてくれたのかもしれません。

それでは、7年(中1)3組の生徒が書いた「正義とは何か」を一部紹介します。

生徒A(女子)
《正義は生きているものすべてだと思う。例えば、煙を出す工場を破壊した奴がいたとする。その人は環境のことを考えて破壊した。でも、壊された人々は困る。もうこれ以上工場を壊されないように守る人がいたとしたら、人々を守る正義と環境を守る正義があることになる。だから全員が正義だと思う。》
▪人々を守る正義と環境を守る正義の意味はわかるけど、工場を破壊した人は人の困ることをしたわけだから、これが正義と言えるかはわからない。
▪人々を守る正義と環境を守る正義、どちらも人々のための正義である。正義と正義がぶつかりあっているということで、どちらも守るために戦っているから、どちらも正義だといったのには賛成します。

生徒B(男子)
《差別や偏見というものを持たず、1つ1つの生物を愛し、大事に守ること。誰かが悪の心を持ち、誰かが助けを求めているときに、誰かが助けて解決しないと、ずっと続いて生物が混乱して滅びゆくから。他の生物を食べている生物は感謝しなければいけない。》
▪正義とは何だろう?という抽象的な質問に対し、どうすればいいのか、最終的にどうなっていくのかなど、すごく良く書けていてすごいと思いました。私の考えとは違い、みんないろいろな考えを持っているのだなと思いました。
▪生物でたとえているが、それが強者と弱者ということなら、そなたが考える通りで、差別をしたり、強者や弱者を決めつけてはいけない。一人一人を守り、きちんと感謝すべきだ。

生徒C(女子)
≪正義というのは、自分のしてきた経験をもとに、自分の意見をしっかりもち、自分がこれを心からしたいということをするのが正義だと思う。私は、自分と周りの人にやさしくすることが正義だと思う。だから自分の思う正しいことを相手に押しつけるのは正義じゃない。人がいやな気持ちにならないことをするのが正しいことで、正義だと私は思う。≫
▪僕も自分の意見をもって行動することは正義だと思いますが、それが悪いことだったらどうします?
▪周りの人に優しくしたり、自分の心から思うことが正義だというのはもっともだと思いますが、じゃあ、自分がもし心から死にたいと思い、死ぬことも正義なのですか?

生徒D(女子)
《正義とはうそ話だ。偽善者が自分の株を上げるために作ったうそ。なぜなら「正義」という言葉がずーーっと世の中にあって、それでもずーーっと格差社会が続いている。そんな世界で「正義」なんて言葉を使っても、うそにしか見えない》
▪たしかにそう思う。だから格差社会が生まれるのも納得する。でも、自分的には強者が弱者を助けるのは正義なんじゃないかと思う。
▪確かに正義があれば格差社会が続くわけないけど、社会を変えるほどの正義ではなく、小さな正義もあるんじゃない?

生徒E(男子)
《ぼくの正義は、みんながどれだけしあわせになれるのか、それを多くできる人がぼくの思う正義だ。》
▪たしかにー。どれだけこの世界に貢献できるかってことね。なるへそ。たしかにこれこそ正義だわ。

生徒F(女子)
《カリクレスは、動物の食物連鎖と同じで人間もそうだと言っているが、人は弱くても考えることで良い結果を残す人もいる。だからカリクレスの言っていることは違うと思う。正義とは自分の思う正しいことが正義。バイキンマンも自分が正しいと思うからアンパンマンと戦っているし・・・》
▪確かに立場によって考えが違うから実際どうなのだろうと自分も思った。バイキンマンとアンパンマンは自分が正しいと思っているから戦っているっていうことは、お互いの正義同士がくいちがっているということ?
▪たしかに、バイキンマンがアンパンマンと戦うのは、バイキンマンが正義だと思って戦っているからというのは共感できた。つまり、アンパンマンの正義とバイキンマンの正義は違っているっていうこと・・・?

生徒G(男子)
《正義とは…平和や正しいこと。自分のこと、他人のことを大切に、誠実であること。差別がないこと。》
▪納得できた。正義は誰に対しても平等でなくてはいけない。ちなみに悪党はいると思う? 正義と正義じゃない人がいるだけか? 正義と悪党だけがいる世界か?
▪自分の考えと表現の仕方がちがうけど、どの人が読んでもわかる説明の仕方で、すごい共感する。

生徒H(男子)
《だれかが苦しんでいる時に助けたり、悪い行いをしている悪人をさばいたりすることが正義である。常識的に考えるとこういう意見になると思うから、こういう意見にする。》
▪その悪人は自分の考えを正義だと思っているなら、さばく人のことを逆に悪人だと思うのでは?
▪たしかに誰かをたすけたりすることは正義だと思う。悪人をさばくことは正義だと思うけれど、悪人ではない人をさばくのは正義ではないと?

ここには、対話の生まれるきっかけがたくさんあるように思います。たった8分の自分の考えを書く時間。当然突っ込みどころもたくさんあるでしょう。コメントを書く7分の時間。誰が書いたではなく、目の前の文章と向き合います。率直な意見が記されます。日常の会話では、できそうでなかなかできないことです。アトランダムに回ってくるプリントを見るたびに「おもしれ~」とつぶやいている男子生徒がいました。書く時間とそれを読むまでの時間のギャップ。とても楽しい授業に参加することができました。

(副校長 堀内)