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〖ほりしぇん副校長の教育談義〗(41)中3「卒業研究」の実践-⑨「してみる計画」と保護者・卒業生ボランティアの役割1

中学校ニュース
*正門の桜はすっかり散ってしまいましたが、生命力あふれる新緑の季節です。様ざまな花々が咲き誇っていて井の頭の公園はとても華やかです。
私は今年度7年(中1)生の「哲学対話」の授業を担当することになりました。(4クラスのうち2クラス)年度初めの授業、みんな緊張の面持ちですが、しっかり手を挙げて自分の考えを述べることのできる生徒が多く、これからの授業が本当に楽しみです。
〖ほりしぇん副校長の教育談義〗は、『中3卒業研究の実践』の9回目。今回で第41話になります。お付き合いいただき、本当にありがとうございます。

(中学校副校長 堀内雅人)



9 「してみる計画」と保護者・卒業生ボランティアの役割


『卒業研究』において、担当教員の一番の役割は、良き聞き手であることだと思っています。生徒の研究するテーマにおいて、担当教員が専門性を持っているわけではありません。教科の授業においては、その専門性が問われます。しかし、こと『卒業研究』においては生徒の側が他者に伝える主体なわけです。「その具体例では説得力がないよ!その事実だけで一般化できるのかな? 難しくてわからない。もっと分かりやすく説明してほしいな。」担当教員は、あまり物分かりよくなってしまってはいけない気がするのです。

一方で、参考文献の見つけ方、引用するときのルール、図書館の利用の仕方など事前に指導しておかなければいけないことはもちろんあります。それらの中で、「~してみる計画」を一緒に考えてあげることの重要性はますます大きくなっています。人と人を結び付けてあげることは、研究をただの調べ学習で終わらせない重要なポイントにもなっているのです。

しかし、教員一人一人の情報、人脈には限りがあります。また、本校のように大学を持たない小さな学校においては、直接相談できる場もありません。そこで、本校では在校生の保護者の方々に向けて『卒業研究保護者ボランティア』なるものを募ったのです。専門をお持ちの方で、生徒の研究テーマについて相談にのっていただける方、現場を紹介いただき、見学やお話をうかがえる場を提供していただける方。すると、こんな方々から了解のお返事が舞い込んできました。



理化学研究所研究員(理論物理学)/新日鐵住金研究所(鉄づくり・鋼板の加工技術)/住友商事(環境問題・国内電力)/日本マイクロソフト(認証)/日本放送協会(報道・番組制作・情報通信)/読売新聞/朝日新聞

上智大学教員(フランス史)/一橋大学教員(数学)/日本大学教員(教育学)/大妻女子大学教員(服飾文化・デザイン)/工学院大学教員(数学)/東京外国語大学教員(言語学・ことばと文化)/目白大学教員(美術教育)/法政大学能楽研究所/武蔵野美術大学教員(芸術文化)/首都大学東京(インテリアデザイン)

日本IBM研究員/地方公務員(保育・幼児教育)/システムエンジニア(プログラミング)/テレコスタッフ株式会社(映像・ドラマ・マスメディア)/半導体設計と技術研究開発(画像処理・色の原理・視覚・Cプログラム)/生態学・動物調査/学芸員(日本考古学・遺跡訪問)/美術館博物館学芸員

縫製業(針仕事)/中国帰国者支援・交流センター/アロマテラピーインストラクター

獣医師/恩賜上野動物園飼育係/小児科医師/保健師/看護師/ろう学校/薬剤師

漫画家/ライター/翻訳家/絵本作家/フルート演奏/音楽分野におけるドイツ語通訳・翻訳/インテリアデザイン/カラーコーディネート・・・・・・



申し出を頂いた方の一部を紹介させていただいたわけですが、これをみるだけでも保護者の方々の多様さ、文化的な豊かさを感じずにはいられません。学校というものはどうしても閉鎖的になりがちです。同じ年齢の生徒が同じ教室に集められ、同じ方向を見ている。教員が「責任」という名のもとに生徒を囲い込んでしまう。これからの時代、学校がもっと社会に開かれ、学びの場としての可能性が広がっていくことを期待します。教員の役割が、専門の教科を教えることと同時に、開かれた学びの場へとつなぐコーディネーターの役割を果たしていくことになるのではないでしょうか。



保護者ボランティアや卒業生の協力者からはさまざまな、「~してみる計画」のアドバイス、紹介等をしていただきました。ここでは、担当教員から私に届いた報告の一部を紹介させていただきます。



◇研究テーマ:「グラフィティ」(壁の落描きアート)

卒研ボランティアの高橋のぼるさん(漫画家)からは、「黙って落書きをしたら、それがいかに素晴らしかったとしても犯罪になってしまう。でも、きちんと了解を取り、打ち合わせをした上で表現すれば、それは多くの人に喜んでもらえる作品になる。そういう経験をしてほしい」、そんなアドバイスをいただきました。 表現の実践的な研究ができる良い機会を探していたところ、高橋さんが精力的に動いて下さり、吉祥寺北口「ハモニカ横丁」のラーメン店「珍来亭」さんのシャッターに、作品を描かせて頂けるという幸運に恵まれました。デザイン画のプレゼンなど、高橋さんや店主の飯田さんと打合せを重ねた後、定休日の現場に色とりどりのカラースプレーで制作を決行。WELCOME BACK(おかえりなさい)と語りかける、鳥のカラフルなキャラクターが一気に描きあがりました。出来映えをご店主にも大変喜んで頂け、営業時間外の「お店の顔」として、親しまれる存在になることが期待されます。制作の過程は今後論文としてまとめていきます。



◇研究テーマ:「どうすれば読者を感動させる小説を書けるか?」

本校の卒業生(59回生)で小説家の唯野未歩子さんに会っていただくことにしました。場所は国立のロージナ茶房。山口瞳が常連だったことで有名なカフェですが、石原慎太郎が一橋大学の学生時代、芥川賞受賞作である『太陽の季節』の原稿を書いていたというお店でもあります。そんな文学の香りのする中、「小説を書くときに大切にしていることは何か?」「どうすれば人を感動させる小説を書けるのか?」といった答えづらい質問にも、雑談を交えながらお話ししてもらいました。現在の出版界の状況や編集者と作家との関係など、私も興味深く聞かせてもらいました。



*さらに、実現した『~してみる計画』をご紹介します。