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〖ほりしぇん副校長の教育談義〗(39)中3「卒業研究」の実践-⑧『今求められるフィールドワークとしての「~してみる計画」』

中学校ニュース
*本日、中学校入学式が行われました。とても温かな式となりました。在校生の全員参加は叶いませんでしたが、実行委員の生徒たちが新入生を気持ちよく迎い入れるために教室の準備、案内や誘導、式の司会等、主体的に動いてくれました。一気に学園が華やかになったように思います。

さて、新年度になりましたが〖ほりしぇん副校長の教育談義〗はもう少し続きます。今回は第40話。「卒業研究の実践」の8回目となります。引き続きよろしくお願いします。

(中学校副校長 堀内雅人)



7(前回) 最も大切なテーマ探し~その2(第39話)


8 今求められるフィールドワークとしての「~してみる計画」


時代とともに、論文を書き、それを発表するための機器は次から次へと進化していきます。30年近く前に初めて生徒に卒論を書かせたときは、手書きが当たり前でした。原稿用紙30枚以上とは、まさに30枚以上でした。30という数字に(その後、20枚以上とした年もありました)特段の根拠があるわけではありません。はじめて卒論に挑戦する彼らに、漠然とでも目標とするボリュームを示しておきたかっただけです。

その数字を発表したとき、生徒たちはまだその大変さに気づいてはいません。何か楽しいことができるのではないかというぐらいに気楽に考えていたのでしょう。それで十分です。ネガティブにとられては困るなと思っていたのは杞憂に終わり、どこか楽しげでした。一方、保護者会でそれを発表したときはその逆でした。一斉に「え~!」、そして笑い声。「そんなこと、できるんですか? 少なくともうちの子は・・・」というように私には聞こえました。


その年の原稿提出の締め切り日のことは今でも覚えています。「一人も残らず、全員の論文の載った論文集をつくろう」それが合言葉でした。「締め切りに間に合わないと、論文集には載せられないぞ!」そんな姑息な手も使ってしまいました。ところが、まだ一人、未提出の男子生徒がいました。締め切り時間の少し前になってクラスの女子生徒が職員室に飛び込んできました。「あと10分待ってください! A君、もう少しで完成するから!」それからしばらくし、A君がクラスの生徒4~5人と一緒に笑顔で、そして照れくさそうに職員室にやってきました。「できたよ!」満足そうな表情でした。私はページの抜けがないかを確認しました。ところが、あとがきのある最終ページがないのです。A君の表情が一気に変わりました。「今、書いたばっかりなんだよ!」隣にいた女子が「来る途中で落としたんじゃない? もう一度教室まで戻ってみよう」。その1枚はすぐに見つかり、事なきを得ました。今となってはなつかしい笑い話です。

現在、生徒はGoogleclassroomで文書やスライドを作成し、長期休み中であっても担当の先生とつながり、アドバイスをもらったり添削してもらうことが可能になりました。


発表の形態も大きく変わりました。当初は、全員が1枚の模造紙に自分が研究したことをまとめ、それを展示することから始めました。展示場所にやってきたお客さんに、その場で生徒が質問を受けたり、解説をしたりといった年度もありました。まだ、パソコンが一般に普及していない時代でした。

しかし、今や各家庭にパソコンがあたりまえとなり、学校にも1クラスの人数分のパソコンが設置され、ワードやパワーポイントの指導も行われるようになりました。各教室には、スクリーンやプロジェクターが設置されています。誰もがネットで知りたいことを検索することが可能になりました。行事の報告など、私以上にパワーポイントを使いながらわかりやすく、しかも美しく発表しています。

便利になったことは素晴らしいことではあります。形を作ることもうまくなりました。しかし、「かんたんに」できるようになるということは、実は本当に大切なものを失うということでもあります。自分の頭で考えること。自分の手や足や耳を使うこと。悩むこと。稚拙であっても、自分の表現にこだわること。


ネットでの検索は、自分に都合のいい意見をたくさん見つけるのに役立ちます。それがかたよったものであっても、なかなか自分では気づけません。ネットは本当に便利なツールではありますが、それを使いこなすには様々な経験と学びが必要なのでしょう。卒研の目的の一つに、他者と出会うということがあります。しっかりとした参考文献に出会うことはその近道でもあります。それも立場の違う2種類以上の文献に出会ったとき、思考は動き始めます。しかし、15歳が読むのに適当な文献がすぐに見つかるわけではありません。ややもすれば、安易に引用し、体裁を整えるだけの論文になってしまいます。図書館に行けば、お勧めの研究テーマを紹介した本が出ています。お勧めというのは、参考文献を探しやすく、想定される結論にかんたんに持っていけるということです。

また出てきました。「かんたんに」という言葉。私たちは彼らにそんなことをさせたいわけではないのです。たとえ、思い通りに研究が進まなくとも、自分の考えたテーマとしっかり向き合い、格闘し、その時点での自分の主張を文章で書き、他者に向かって発表すること。私たちは彼らに、無難に論文をまとめる方法を教えるのではなく、夏休み中のフィールドワークを課すことにしました。実際に行ってみる。話を聞いてみる。実験してみる。観察する。専門家に出会ってみる。フィールドワークなどというとどこか難しく聞こえてしまいます。同僚の先生がそれに「~してみる計画」と名づけました。ネーミング一つで、わくわくする取り組みに変わります。

*次回に続く